恋の訪れ


あー、くそ、めんどくせえな。




「あ、獄寺くん。おはよう。」



「あ、十代目!おはようございます!」



「お、ツナに獄寺じゃねーか!はよっ!」



「山本おはよー。………………獄寺くん、どうしたの?」



「っ、なにがですか?十代目。」



「え、なにかって言われるとよく分かんないけど……。」





十代目に心配かけるなんて!俺は何をしてるんだ!





「別にたいしたことないですよ、ただ今日当番なんです。」



「へえ、獄寺の隣の席のやつ苗字だろ?はやく行ってやった方がいいんじゃねーか?」



「……………そいつが、問題なんだよ。」





俺の小さな呟きは二人には届かなかったらしい。
だが、そろそろ行かねえとやべーな。





「すいません十代目。俺今日は先に行きますね!」



「あ、うん、分かった!またあとでね。」



「またあとでな獄寺!」









□ ■ □









朝の教室は誰もいなくてすきだ。
自分だけがこの空間に取り残されてるみたいで。



(朝からどんだけ暗いこと考えてんの私は…)



でも、人がいる所は苦手。
教室にいると息が詰まってしまう。



(こんなんだから陰でツンドラの女、とか言われるんだろうな…)



それでも、構わない。
だから、、、














「…………い、………お……!」





遠くで声がする。
なんでだろう、すごく心地いい声だな。
スッ、と目が覚めて声がした方を見上げた。





「ようやく起きたか。おら、とっとと行くぞ。」



「………え?……獄、寺くん?」





名前を呼んだら獄寺くんが驚いたようにこっちを見た。





「…………なに?」



「いや……、なんでもねえ。」



「あ、ねえ、行くってどこに行くの?」



「…………はあ?」





呆れたような顔をした彼。





「今日当番だろ?」



「………ああ、そんなこと。」





それだけのために話しかけてくれるなんて、なんて、律儀な人。






「てめっ、そんなことって!」



「私が全部やるわよ。それでいいでしょう?」





そう言うと彼は一瞬驚いたように目を見開いてそのあと、すごく怒った顔をした。





「てめえ、ふざけてんのか?」





怒気を孕んだ声に肩がビクリと震えた。





「っ、ふざけてなんか、ない。」





怖くて、声が震えた。
情けない。
手をぎゅうっと、握りしめる。
これ以上、震えてしまわないように。

そんな私の様子を見てか、幾分か纏う空気を緩めてくれた。





「……女に全部やらせらんねーよ。」



「へ……?」





ポツリと呟いた言葉。





「あー、だから!二人でやった方が楽だし、はえーだろ!だから、」









んなこと言うんじゃねえ。









「お前になにがあったとか俺は知らねえけど、露骨に人を避けるな。世渡り上手になれ。じゃねーと辛くなるのはお前だ。」











びっくりした。

この人にはばれていた。

私が、避けてることを。







話したこともない他人の心配をするなんて、どんだけお人好しなんだ。






「………が……う。」



「あ?」



「ありがとう、獄寺くん!」





他人にほんとうの笑顔をみせるなんて、はじめてだ。なんでだろう、心臓がすごくドキドキしてる。





「ちゃんと笑えんじゃねーか。」





ニヤリと笑った獄寺くん。その顔を見て、また跳ねる心臓。





「よし、じゃあ行くぞ。」





歩きだした彼の背中にまた笑みを溢し、私も歩きだした。











恋の訪れ




(この気持ちを知るのは、まだまだ先の話)

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